甲状腺癌について
現在、いろんな癌で内視鏡手術が行われています。甲状腺手術も内視鏡手術を行っている病院もあります。私は、頸部切開一筋に手術を行ってきました。
今後も内視鏡手術を行う予定はありません。私が内視鏡手術をせず頸部切開にこだわる理由は、
① 確実な切除ができること。
② 術中迅速病理の結果で癌とわかった場合などに、手術方法を変える必要が生じても、新しい切開を追加することなく手術が行えること。
③ 頸部は、人体のなかでも最も傷跡が目立ちにくい部位の一つであること。
④ 内視鏡手術で切除できるような腫瘤なら、頸部切開手術では非常に小さな切開で簡単にできること。
です。
傷跡についてもう少し詳しくいいますと、頸部は術中に火傷をしなければ通常手術したことを気づかれないくらいきれいになります。これと比較して、前胸部の内視鏡の傷は、一目でわかることが多いようです。水着になることが多い方などは、頸部切開がおすすめです。
傷が目立たないようにするためにどのような工夫をしているかといいますと、
① 創プロテクターを使用する。
② 皮膚に近いところは可能な限り電気メスを使用しない(広頸筋も普通のメスで切開する)。
③ 右葉切除・左葉切除に関わらず、左右対称に(正中で)切開する。(そうすることで、迅速病理の結果で全摘が必要になったときにも対応できる。また、将来対側の手術が必要になった時にも同じ傷で手術できる。)
今回、私が前病院で執刀した4症例を呈示いたします。4人の患者さんは全員明らかな再発はしていません。手術は、基本的に第1助手は後期研修医(卒後3~6年め)、第2助手は前期研修医(1~2年め)にしてもらっていました。反回神経はデリケートです。原則として写真のように鉗子で持ち上げたりしてはいけないとされます。私は、熱傷やよほど乱暴に扱わない限り神経麻痺は発症しないということを伝えたくて、あえて写真を撮るときは持ち上げたりすることがありますが、これにより術当日の飲水に問題がある人はいません。なお、術中写真は全て外回り看護師に撮影してもらっています。
1例目は、微小癌(1cm以下を微小癌といいます)の方で右葉切除+同側リンパ節郭清を行いました。基本的には、甲状腺全摘+中央区域リンパ節郭清も同じ大きさの傷でできます。
甲状腺癌は、乳癌と違い、微小癌の場合はそのまま様子みる選択もありますが、細胞診で癌と診断がつけば、手術をお勧めしています。また、再手術時は癒着のために反回神経の同定が困難なこともあるので、初回手術時にリンパ節郭清を行います。すなわち微小癌でも通常は葉切除+同側のリンパ節郭清を行っています。そして微小癌でも迅速病理でリンパ節転移が認められた時には甲状腺全摘+中央区域リンパ節清をするように術前の説明ですすめさせていただきます(最終にどうするかは患者さんの希望にあわせます)。
2例目は、甲状腺全摘+中央区域リンパ節清を行った患者さんです。
基本的に外側リンパ節郭清は明らかな腫大したリンパ節がないときは行っておりません。手術操作を加えていないので癒着がおこらず後からでも容易に手術が可能です。
3例目は、気管合併切除をした患者さんです。術前の気管支鏡検査で気管内に癌が露出しており気管も合併切除しました。また、術前から嗄声があり腫瘍が反回神経を巻き込んでおり、神経も一部合併切除を行いました。
4例目は、頸部リンパ節転移で見つかった2mm大の微小乳頭癌の患者さんです。甲状腺微小癌はリンパ節転移で発見されることがありますが、本例も両側外側区域のリンパ節腫脹で発症しました。右葉の腫瘤は、術前の細胞診どおり腺腫様甲状腺腫で良性でした。中央区域のリンパ節も転移して腫脹していました。甲状腺全摘と中央区域および外側区域のリンパ節郭清をしています。
閉創は私もしくは第1助手の後期研修医が縫っていましたが、以上のように頸部の手術創は非常にわかりにくくなります。
3例目を除いた他の症例(1,2,4)は、前頸筋には横切も加えていません。第1,第2助手に頑張って筋鈎を引っ張ってもらって、できるだけ前頸筋を温存するようにしています。
手術はやりにくいですが、術後の疼痛や違和感を軽減できるのでやりがいがあり、できるだけ前頸筋は温存するようにしています。様々な要素も加わり術野が完全に展開できない場合や特に外側リンパ節郭清などが不完全になる場合は筋肉を切離し、閉創時に縫合するようにしています。
年齢や病状の進行度によって手術法も異なります。患者さんにとって最適の方法で最善をつくして対処していきたいと思います。(文責:一森敏弘 2011.10)