たまき青空病院

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内シャント手術 ―自己血管内シャント100%をめざして―

当院では、人工血管は使わず自己血管内シャントによる血液透析を基本としています。
当院の内シャント関連手術の方法は、

1)タバチエールもしくは前腕(手関節部)を第1選択とし、動静脈吻合は側々吻合し、静脈末梢は結紮する(機能的端側吻合)。
なお、皮膚切開は、タバチエールで1~1.5cm、前腕では1.5~2cmを目安とした横切開とする(図1)。
2)肘部(肘窩)で作製する場合は、側々吻合の静脈末梢は結紮せず、前腕穿刺での脱血が可能となるように末梢静脈を残しておく(図2)。
3)シャント閉塞を確認すれば、できるだけ同日の早い内にシャント血栓除去を施行する。閉塞判明から血栓除去までに時間を要する時は、状況によりヘパリンを投与しておくこともある。
4)血管吻合の7-0プロリンと皮膚縫合の4-0ナイロン糸以外は全て吸収糸を使用し、絹糸は使用しない。
5)術者は手術用双眼ルーペを使用する。助手も通常はルーペを使用する。
6)全て局所麻酔下に行う。
7)抗凝固薬などは手術のために中止することはない。また、ほとんどの手術で静脈断端などから吻合前にヘパリンを投与している。

次に閉塞した内シャントを生かす手術例を示します。
症例1(図3)

血栓除去には、フォガティーカテーテル等を用います。静脈屈曲などで抵抗がありカテーテルが先に進んでいかない箇所があれば、そこに新しく皮膚切開をおき、同部の血栓を除去し、そこから再びカテーテルを進めて血栓を除去します。

この患者さんは3つめの皮膚切開をおいた箇所のシャント静脈が器質的狭窄となっており、同部の静脈を処理し、内シャントが復活した例です。
シャント閉塞は、吻合部から遠く離れた部位が原因になっていることがあり、血栓除去は納得がいくまで妥協しない心意気が重要です。

症例2(図4 – 1 . 2)

他院の患者さんですが、シャント瘤からの脱血不良にて当院で手術を行いました。シャント瘤を露出後、切開し、壁在血栓を内膜ごと可及的に切除しました。また、瘤は部分切除し、細めに形成しました。瘤から中枢側の静脈は、完全閉塞し索状になっていたので、閉塞している静脈を切除し、異なる血流で開通していた中枢の静脈と形成した静脈を吻合しました。

この患者さんは、本手術の約2年後に再度血栓除去を要しました。
一般に慢性腎不全では、主に細胞性免疫が低下し感染症に罹患しやすくなっています。さらに高齢や糖尿病になると免疫力が著しく低下します。一方、人工物は感染すると非常に厄介です。心臓血管外科で行うような単なる人工血管のバイパスと異なり、体外から週3回の穿刺を伴う人工血管内シャントの最大の欠点は、感染のリスクが高まることです。そして、その感染は時に敗血症など重症化することがあります。したがって、内シャントには人工血管を使用しないという方針を原則にしています。

内シャント手術は、拡大鏡(外科用双眼ルーペ)なしでも行えます。しかし、より確実な血管吻合を行おうと思えば、拡大鏡を使用した方がよいという意見に異論はないと思われます。拡大鏡を使用すると、細い血管が太く見え、周囲も大きく見え、確実に血管が吻合できます。医師には、現在できうる最善の医療を提供することが求められるので、内シャント手術は拡大鏡を使用した方がいいと考えます。例え、拡大鏡不使用で非常に良い内シャントが作製できたとしてもそれは最善を尽くしたとは言えないと思います。

糸にもこだわっています。手術部位感染(SSI)の予防のみならず、余分な生体反応を可能な限り避けるために体内では吸収糸を使用します。さらに、血管を牽引する際も太い絹糸などで牽引するより血管テープを使用する方が生体により優しい手術ができると考えています。絹糸よりも吸収糸の方が費用はかかります。しかし、請求できる手術費は糸の種類に関係なく同じですが、そうしています。なお、甲状腺手術や乳腺手術でも、残糸となるものは吸収糸を使用し、絹糸は使用していません。

肘部で内シャントを作製する際は、上腕動脈を吻合に使用すれば血流過多となりやすいので、分岐した橈骨動脈を吻合に用いるように努力します。
最後に、使用中のシャント閉塞がわかれば、可能な限り緊急で血栓除去や中枢側での再吻合が行える体制にしておくことも内シャントの維持に重要と考えています。(文責:一森敏弘 2016.2)